結局、点滴を一本落として
そのまま帰宅することになった。


治療も説明も
ひとまず圭介が全て請け負い

帰りの会計では彼女が自分で金を払っていた。

本当は両親に対応してほしいところだが
連絡がつかないものはしかたない。


学校に電話をしたときに
緊急連絡先を調べてくれた同僚が
彼女の父親は医師で、母親は弁護士であることを教えてくれた。

職業を聞くだけでも
彼らが忙しそうなことくらいよくわかる。


霞月はと言えば

医師から腕の状況を聞いたときに
はっきりと見せた表情は
ほんの一時で影をひそめ

それ以降は普段のように
関心がないかのように振舞っていた。

だがしかし


「――さっき家に電話したけど
 誰も出なかったから
 俺が送ってくな」


病院のドアをくぐりながら
当然のつもりで言った言葉は

また彼女の機嫌を損ねたらしい。


彼女の眼がちらりと圭介をねめつけ
わざとらしすぎる大きなため息が遠慮なく吐かれた。



「……なんだよ、しかたないだろ?
 おまえは倒れたんだし
 一人で帰すわけにはいかないんだから」



霞月の無言の圧力に対し

圭介の言葉は言い訳がましく響くのが
自分でもわかって顔を顰めて
ちらりと横目で隣りを見たが

彼女はもう関心を失ったかのように

無表情で無感動な顔をしていた。


(……たく、なんなんだよ。
 人がせっかく気を使ってやってるのに)


何の遠慮も躊躇いも見せないで
車に乗る霞月をみながら

「腹が立つ」とも少し違う
苛立ちのようなものが胸の中で渦巻いた。