医師は少し怪訝そうにしたものの
すぐに笑みをつくって
「大丈夫ですよ」と言った。

「二~三週間でギプスは取れますよ」

しかし霞月はそうじゃないと言うように
首を横に振った。


「もと通りに――
 ちゃんと動きますか?
 ケガする前みたいに……」


なにをそんなに、と訝しがりながら
霞月を見直すと
ギプスを巻かれた指先が
カタカタと震えていた。

医師は少し目を細める。


「――そうですね。

 基本的には元通りになりますよ」


霞月が深く息を吐き出す。
その吐息が震えているのがわかった。


「レントゲン上でも後遺症が残るような
 所見はありませんでしたよ。

 しばらくギプスで固定をするので
 外したあとは一時的に動きにくいと思います。

 少しリハビリは必要かもしれません」


ニコリと医師が微笑みかければ


彼女はうつむいて

ベッドに置かれたままだった右手を抱きしめた。

ギプスの上からそっとキスを落としている。

頬を寄せ
祈るように額に当てた。


さらりと耳から落ちた髪の間から覗く唇が
小さく「ゴメン」と

動いたように見えた――…。