高梨圭介は一時間目の授業を終え
職員室へ足を踏み入れた。




手にしていた教材を
自分の席に無造作に置くと

少しかわいすぎる絵柄のマグカップを片手にコーヒーを淹れにいく。


同じようにコーヒーサーバーに集った同僚と少し会話を交わし


湯気の立つそれをすすりながら

自分の席に戻った。




いすを引きながら窓の外を眺めるのは

圭介のクセだ。




五月晴れとはまさにこのことだろう。


その五月ももう終わりが近づいているが
ここ数日気持ちのいい天気が続いていた。




風が吹いているらしく
雲がゆっくり流れている――。




突然


圭介が眺めていた窓を
上から下へと何かが通りすぎた。


「え――っ」


見てはいけないものを
見てしまったような気がして

ぶわっと嫌な汗が一気に噴き出した。


数瞬の硬直のあと
脳裏に浮かんだのは

べっとりとした血のりだ。



「……まさか人じゃねーよな?」



乾いた笑い交じりにつぶやいたそのとき

バタバタバタ――ッ

今度は立て続けに何かが落ちた。




「……」




自分の心臓を縮みあがらせた
『人ではないなにか』
にうっすら苛立ちを感じながら

いすから立ち上がると
窓の下を覗き込んだ。




ふわり――…


心地よい風が舞い込んできた。