気付かなかったのは夕日のせいだ、と思いたかった。
霞月の手首は赤く腫れ上がり
少なくとも正常ではないことは
素人でもよくわかる状態だった。
(いつからこんな怪我を?)
朝からあったのだろうか。
いや、きっとあっただろう。
(どうしてずっと気付かなかったのだろう……)
手首だけではない。
彼女にはあちこち痣や擦り傷があったのに
誰も気付かなかった。
いくら圭介が目を合わせないようにしていたと言っても
それなりに視界には入っていたはずだ。
おかしかったら気付けただろう。
なによりも
あんなに一緒にいた拓真が
「顔色が悪い」ことにしか
気付かなかったのだ。
もし拓真の言葉がなくて
もし自分が気付くことがなかたら
この少女はいつまで
自分の怪我をいつまで隠していたのだろう――。
そう思うと背筋を冷たいものが走った。