乱れた髪の隙間から覗くこめかみにも

痣があった――。


「……ケンカでもしたのか?」


言葉が癪にさわるのか
普段見せないくらい感情をあらわにする霞月。


「うるさいなぁ! 関係ないでしょ?!」


勢いよく立ち上がった霞月が
反対側の手で鞄を掴むのを

圭介は座り込んだまま見上げていた。


「手、怪我してるんだろ?」


「――っ、

 関係ないって言ってるでしょ?
 なんで私にかまうのよっ
 ほっといて!」


取り乱す霞月に対し
圭介は普段よりもずっと冷静に彼女を眺めていた。


確かに顔色が悪い。

なんで気付かなかったのかと思うくらい
青白い顔をしていた。


――いや、

気付かなかった理由は明白だ。

見ていなかったのだから――。


自分に向けて、
そして頑なな彼女に向けて

仰々しく「はぁーっ」とため息をつき
膝に手をついて立ち上がった。



「――関係ない関係ないって
 じゃぁ誰なら関係あるんだよ?」



動きを止めた霞月は
圭介に黒い瞳を向ける。

目を眩しそうに顔を顰め
軽く頭を振っている。

「めまいがするのかもしれない」
そう思った。


「あんた以外の誰かよっ!
 センセーたちも私みたいな問題児
 背負ってカワイソーだけど

 だったら私みたいのにはかまわないで

 他のいい子、

 ……いい子の面倒で、もみてれば


 いいじゃ、な……い」


勢いよく言い立てられた言葉は
次第に声に張りを失い
徐々に小さくなっていっていた。

黒い瞳は輪郭を失うようにぼやけ


やがてフラっと頭が後ろに倒れる。



とっさに差し出した腕に

彼女の重みがかかった――。



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