圭介が声をかけるよりも早く
霞月は立ち上がり床に放り出してあった鞄を拾い上げ

ドアの前に立ちふさがる圭介をよけながら
廊下に出ようとする。


しかし

その瞬間、思わず息を呑んだ。



霞月の目は真っ赤になっていた――。



「ちょ…、おまえ、どうしたんだよ」


霞月は戸惑う声には答えず
教室から出ようと圭介の体を押しのけようとする。


そのとき

ドアの柱にかけた腕のブラウスの下から
紫色の痣が覗いていることに気付き

思わずその腕を掴んだ。


「――っ! 放してよっ!」


「こ、この痣どうしたんだ?!」


圭介がブラウスの袖口をめくると
それは予想以上に大きかった。


「あんたにカンケーないでしょ!
 放して!」

ぶんっと勢いよく腕を振って
白い腕が圭介の手から逃れる。


あわてて霞月の手首を掴み直した瞬間

電流が走ったかのように
彼女の腕が震えた。



「――っっ!!」



霞月が声にならない悲鳴を上がり
びっくりして手を緩めると

そのまま座り込んでしまった。


「おい、相馬? 大丈夫か?」


霞月は圭介が離した手を抱え込むようにして蹲った。

しゃがみこんで霞月の肩に手をかけるが
彼女はまた腕を振り
その手を払いのける。