「次読んでみろ」


圭介がそう言えば

彼女が困った顔をしたり
反抗的な態度を取ってきたりするだろうと思った。


しかし

霞月はつまらなそうな表情のまま
ため息を一つつき

隣の席の女子に声をかけた。


「ごめん、何ページのどこ?」


突然話しかけられた女子は
大きく目を見開いて
あわてて自分の教科書を指さす。

「ここっ!
 ……えと、二十六ページのここです!」

なぜか敬語。


「ありがと」
と口元に小さな笑みを作り

ゆっくりとした動作で立ち上がると
霞月は何の躊躇いもなく英文を読み始める。



スラスラと淀みなく――…

発音こそ日本人のそれ。
でも間違っているものは一つもなかった。




ポカンと彼女を見つめていたのは
圭介だけではない。

他の生徒も教科書に目を落とすことを忘れ彼女を見上げていた。


いつもなら一ページで切るのだが
そんなことも忘れ

彼女を軽く目を見開いたまま

謳うように流れるアルトの声に聞き入っていた――。




……二ページ目が終わり
三ページ目に差し掛かる。


霞月が教科書から圭介に視線を移した。



「最後まで読みますか?」



一瞬

なんのことだかわからなかった。