霞月に『見とれていた』拓真が
不意に我に返ったかのように

近くにあるノートに手を伸ばした。



「勝手に触らないでくれない?」



高飛車で冷たい物言いに

拓真は中途半端に腰をかがめた姿勢で
完全に固まってしまった。


そして素早く霞月の細い指先が
それを取り上げ

乱暴に鞄の中に突っ込んだ。



圭介はこういう人の好意を無下にするタイプの人間が嫌いだ。


殴り倒してやりたくさえなったが

もちろん「そんなことはしてはいけない」
と拳をギュッと握り締める。


何しろ
やっと得ることのできた教職だ――。


「……そ、相馬さん、
 授業出るだろ?」


受けたダメージからは完全には回復しきれない様子にもかかわらず

拓真は持ち前の
明るさと気さくさを発揮しながら
遠慮がちに聞いた。


すると霞月は顔を上げて
不思議そうに首をかしげる。


「授業? なんで?」

「なぁーにしに来たんだ、おまえは」


思わずツッコミを入れた圭介を
霞月は顔を顰めながら見上げる。


「寝ようと思ったのに」


「……っっ!」


(殴るぞ? 殴っていいか?
 なんてムカつく生徒なんだっ)


歯を噛み締めながらも怒りを堪え
何とか叫びを心の中に留めた自分は

本当に偉いと圭介は思う。



.