副担の圭介は
相変わらず、こめかみをヒクつかせている。


霞月と二人、
結局連れ戻された職員室で

麻川拓真はそんな圭介と
大人びすぎて「美少女」とは形容しがたい
整った横顔の同級生を交互に見ていた。


(年上、とかって可能性、ないよなぁ?)


心の中でこっそりとつぶやいたはずなのに、霞月の深い色の黒い瞳がこちらを向いた。


「え――?」


ドキンと胸を高鳴らせたのは、恋などでは、ない――。


長い睫毛に囲まれた瞳は
なにやら嫌そうに歪められていた。


「――な、なに?」

「じゃーな拓真、頼んだぞ?」

「はぁっ?!」

「は?じゃないっつの。
 相馬のこと、教室まで送れよ?」


聞いてなかったのかよ、とぶつぶつ言いながら
圭介がとんでもないことを言いだした。


(じょ、じょーだんじゃ…――)


「――え…と、相馬さん
 ……じゃいこっか?」


……ない、とはとても言えなかった。


拓真はそもそも
どんな相手でも人を邪険にできないタイプだ。

人当たりがよく
公平に付き合い
それに心地よさを感じてしまう。

苦手と思っても堪えてしまうのが拓真だ。



が、今回は本当に気が重かった。


相手は細っこい体躯の女の子だ。


しかし女子ほど怖いものはない。


出会って早々に
苦手認識を持ってしまった拓真には
たとえ数分だと言われても
何とも言えない、いやーな感覚しか襲ってこない。


とりあえず向けた笑顔は

気持ち悪い宇宙人でも見るかのように
綺麗な顔が綺麗に歪られたのをみて

一秒未満で後悔せざるを得なかった。


(な、なんでこんな目に――)


落ちてきた教科書と言い
あまりのついてなさにがっくりと肩を落とした――…