食事の最後に
惺は二人分のコーヒーを淹れて
圭介の前に置いた。

いつか圭介が
霞月にしたようだと思い
小さく苦笑する。


「おいしかった、ごちそうさま」


ワンテンポ遅れて
食べ終わった霞月は
またきちんと手を合わせてから
食器をキッチンに下げにいった。


霞月はシンクに下げられていた食器を全て洗い
そこらへんに放っていたタオルを拾い上げてどこかに消えると
洗濯機を回し始めたようだ。



『生活』という言葉が頭をよぎる――…



穏やかな空気が流れるこの部屋は
二人の『生活感』が漂っていた。

言葉にしなくても
役割分担がされているかのように
それが毎日の行われていることだとわかる。


全てが違和感なく
自然だった――。


「うちの猫ちゃん
 よく働くでしょ?
 意外と家事できるんだよね、あれで」


おかしそうに苦笑して

「まあ当然かな」と軽く笑う。


「頭いいし
 器用だし
 よく気がつくし
 べつに意外でもないか」


のんびりした惺の言葉。


気がつくと
圭介の中から嫉妬心は消えていた。



(もしかしたら
 始めから恋心なんかなかったのかもしれない……)



そんな風にすら思えた。



コーヒーを飲みきると
圭介は立ち上がった。



「迷惑かけて悪かったな」



「もう帰るの?」と聞いてくる惺に
短く返事をして鞄を持った。

惺はとめることなく
「気をつけて」と圭介を送り
圭介は玄関で革靴を履いた。