「紗綾さんのこと」

「紗綾?」

「うん。リュウと紗綾さんって許婚なんでしょ?」

あぁ、なるほど。そんなことを気にしていたのか。

「紗綾のことは気にする必要はない」

「だって!」

「あれは、親同士が勝手に盛り上がってただけで、正式なものでも何でもない。だから、紗綾のことは気にするな」

「……」

安心させるように言ったはずなのに、ハルカは何故かふくれっ面をしている。

「なんだ? まだ、何かあるのか?」

「それ」

「それ?」

「……リュウって前は紗綾さんのこと、綾姉って呼んでたよね?」

思わずため息が出てしまう。

女って、細かいことを気にするもんだな。

でも、それってやきもち焼かれてるってことになるのか?

だったら、少し嬉しいかもしれない。

思わず笑みをこぼしていたのか、ハルカが怪訝そうな顔でこちらを見ていた。

誤魔化すように軽く咳払いをする。