屋上のフェンス越しに、すっかり夜の帳に包まれた校庭の喧騒を眺めていた。

先ほど、言霊を式としてハルカに飛ばした。

だから、それほど時を置かずしてハルカがやってくるだろう。

タイミングよく背後で、ガチャリとノブの回る音がした。

俺は、振り返らずに話しかけた。

「ハルカ、覚えてるか?」

こちらに近づいてきていた足音が一瞬驚いたように止ったが、すぐに動き出し、そしてためらいがちな声が聞こえた。

「覚えてるって、何を?」

「夏休みの神社で言ったこと」

沈黙が落ちる。

それは、嫌なものではなく背中からでも伝わるハルカの赤らんだ顔がわかるようだ。

「えっと、あの、アレだよね」

「アレって?」

「だから、その……」

そこでようやく後ろを振り返ってみたが、期待通りの顔が目に入ってきた。

「ハルカ、おいで」

両手を広げて、真っ赤な顔で戸惑っているハルカを迎える。

少し躊躇った後、おずおずという感じで近づいてくるとそっと俺の胸に手を置いた。

まだ少しある距離を埋めるように、ギュッとハルカのことを抱きしめる。