大学に出て、あたしが困らないように働いて
一緒に暮らせばってずっと思ってアメリカの
大学に行くことを決めたっていうのは、
お兄ちゃんがアメリカに行ってしまった後に
聞いた話。
お兄ちゃんの友人が、妹思いのいい奴だって
そう言って初めてあたしは知った。
「鈴、まだお兄ちゃんだと思ってくれるの?」
いつの間にか詰められた距離は、
ずっと近くて目の前にはきっとお兄ちゃん
の顔が見えるはずだけど、ボヤけた視界では
お兄ちゃんの顔すら見えない。
「お兄ちゃんは1人だけだから。」
世界でたった一人の家族。
もう1人とかそんなのどうでもいいの。
「鈴・・・」
言いたかった言葉がある。
絶対に言おうと思っていた言葉がある。
会ったら、ううん。
違う、帰ってきたら言おうと思ってた。
「おかえり。」
前みたいにおかえりを言いたい。
お家で待ってたようにお兄ちゃんに
おかえりを伝えたい。
「うん。ただいま。」
視界の歪んだ世界は、強い力と一緒に
壊れていった。
「お兄ちゃん?」
言葉がうまく喋れなくて、
「1人にしてごめんな。」
心にはたくさんの伝えたい言葉とか
あるはずなのにぎゅっと鷲づかみされた
かのようで痛くなる。
もしかしたら、ずっとそれを気にしてた
わけで心痛いっていうのはお兄ちゃんの
方が強いかもしれない。
背中にまで回った腕の力は弱まるどころか
強さを増した。
存在を確かめるかのように強く温かい腕に
抱きしめられたのは何度目だろう?