声も出ないってこんなことなんだって思った。

涙すら出てこない引き止めることなんてどうとでも

すればいいのに実際臆病者で怖くて動くことが

どうしても出来なかった。

声に出して言えばいいこと。

それが難しいというのは、あたしがまだ

こだわってるところがあるからで。

小さくなるその背中を追いかけることすら

出来ないあたしは喉が熱くなって、

そこで初めて涙がボロボロ溢れた。

待ってぐらい言いたい。

まだ間に合うならどうかこの声が

届いて欲しい。

「鈴、いいの?」

湊の声があたしの背中を押す。

これで一生会えないとか嫌だ。

こんな思いはもう2度としたくない。

だから、振り絞った。

あの小さな背中を引き止めるかのように

大きな声で呼んだ。

その背中の動きが止まって欲しいと

強く願いながら、声に出して引き止めた。

「・・・ちゃ・・」

目の前に誰が居たってあたしにとって

たった一人の人。

「お兄ちゃん!!」

声が震える。

目の前がユラユラ揺れて、

視界いっぱいに見える景色は

濁ってる。

黙ってるなんて出来るわけないんだ。

一人ぼっちとかそんなことどうでもいい。

会いに来てくれた。

あたしのこと忘れてなかった。

置いてかれたのはあたしだって思ってた。

でも、置いて行ったんじゃない。

あたしを想ってるがゆえに、あのお家

から出て一緒に暮らそうとまで言ってくれた。

その資金を貯めて来るからしばらく待って

欲しいって言ってアメリカに行った。