「鈴、誰にだってあるんだよ。」

湊の口が動くたび、それは重要なことを言って

るんだって分かった。

「痛いって言う傷を同じように俺も持ってる。

それに桐もだね。」

「・・・・・・・・・・・・」

「鈴の人生がどうだったかっていうのは

分からないことだから俺から言えることって

限られているんだ。」

もしかしたら、誰よりも脆く儚いのは湊かもしれないね。

「逃げることも怖がる気持ちも分からなくはないんだ。

でもね、鈴には負けて欲しくないんだ。」

そして、一番強いんだろう。

君がこの世で一番だと思うんだよ。

「痛い気持ちはきっと鈴に与えられた試練なんだって

思って欲しい。それに立ち向かえるのはやっぱり

鈴だけなんだよ。」

静かに夕日が海の上で揺らぐ。

「鈴が後悔することが一番嫌だってことだ。」

桐だってきっと同じなんだよね?

桐にも同じように痛い思いがあるんだよね。

「やらないで後悔するのとやってからの後悔

は全然違うんだよ。」

もうどうしてこんなに優しい人なのか分からない。

最初から放っておいてくれれば良かったのに。

湊みたいには慣れないんだ。

あたしは全然優しくなんかないから。

人のことより自分で必死だから。

「・・・・・湊。」

認めるのは違うんだ。

ホントはすごく嬉しかったんだ。

あの場に顔を見せた彼の口から

『鈴』ってそう名を呼ばれたことが

どれだけあたしを嬉しくさせたか。

「後悔はもうずっとしてる。」

もう昔からずっとそう。

忘れたくないこと。

後悔してるんだ。

幸せを奪うのはもう嫌なんだ。

だから、会えないの。