湊の居ない世界なんて今となっては想像つかない。

私には湊が居ないと生きていけない気がする。

「鈴?」

湊に大事にされてる以上に私は湊を大事だと

思ってる。

愛されてる保証なんてこれっぽっちもあるわけじゃない。

でも、猫としてでも湊に必要だと思われることが

今の私の生きる力になってる。

「湊の匂い落ち着く。」

いつものベットの匂い。

すごく落ち着く。

「そう?」

湊のこの温かい手を放したくない。

優しいこの人をどこまでも信じてたい。

よく手の温かい人は心が冷たいとか言うけど、

あんなの嘘だ。

だって、湊の手はこんなにも温かい。

「湊、私ね。」

「ん?」

「ホントは普通の生活がしたかった。」

「・・・・・・・・」

そんな夢を語れば湊との今の生活を否定

してるように聞こえちゃうかもしれない。

でも・・・・

「お父さんとどこかに出かけたり、お母さんと

料理作ったりって普通の家族が欲しかったの。

でも、私のことなんてどうでもいいの。

私が結局一番要らなかったから。」

だから、諦め癖がついたのを知ってて欲しい。

「鈴。」

「湊が傍に居てくれる生活だけはどんなこと

あっても守りたいの。湊が傍に居てくれれば

他に望みなんてないから。」

家族にはとても恵まれてたとは言えない。

愛されたことすら一度もなかったと思う。

見捨てられて傷ついた心を気付かれたくなかった。

それが一番怖かった。

知られることが一番の恐怖だった。

私は要らない子だったって心が泣いてることを

人に知られるのは痛かった。