「鈴!」
「死んだって良かった。」
湊に拾われず死ぬことの方が望みだった。
「そんなこと言うな。」
「お兄ちゃんだけだった。」
湊に出会うまではきっとお兄ちゃんだけを
生きる支えに出来た。
「鈴?」
湊の声に泣きたくなった気持ちを抑えた。
「お兄ちゃんが私のたった一人の家族だった。」
「・・・・・・・・・・」
「血の繋がりもあんまり気にしたことない。」
「・・・・・・・・・・」
「誰に何て言われようともお兄ちゃんだけは
私の家族だって言いきれた。」
悔しさに涙濡らしたくなる夜も
お兄ちゃんの帰りが待ち遠しい日も
全部我慢できた。
「お兄ちゃんが居なかったらもっと前に
逃げ出してた。」
電話で聞こえるお兄ちゃんの声も
よく覚えてる。
「鈴・・・」
「でも、苦しくなって逃げ出したのは
私なの。」
我慢できずに飛び出したのは私。
「逃げ出す覚悟なんてとっくに決めてたのに
お兄ちゃんが居たから逃げなかった。」
だけど、お兄ちゃんがアメリカに行って
3年も経った今。
信用してるはずのお兄ちゃんを待つくとが
出来ないぐらい私の精神は追いやられてた。
「そんな時、湊に会ったの。」
人生で一番卑屈だった時の私。
何も持ってない私。
警戒心丸出しの私。
涙もろくに出なかった私。
そんな私には湊の優しさが温かかった。
湊みたいな人を不覚にもご主人様として
生きてもいいんじゃないかって思った。