ぼくは、立ち上がっていつもの睡眠薬を口にふくみ、それをアズミに与えた。

「ぼくはさっき、アズミを襲わないって言ったけど」

「うん」

「…少しだけ、嘘ついていいかな」

「…いいよ。少しだけなら…」

ぼくは、彼女の首筋にそっとキスした。

「二人でいるとあったかいな、アズミ…」

「うん…亮平…」

ぼくは、両腕をアズミの背にまわした。
彼女の、ぼくの背をつかむ指の力が、睡眠薬が効くにつれ、どんどん抜けていく。


――そのままぼくらは、抱き合ったまま眠りについた。


「いつか薬なしで眠れる夜を、一緒に過ごそうね…」


降りしきる雨の音のなかで、ぼくは最後にそんな声を聞いたような気がした。