「――もし、ぼくがライオンなら」

「ライオンなら?」

「たくさんの動物のなかから絶対、アズミを選んで襲う。ダッシュでがぶっと噛みつく」

「ふふっ。わたし、脚速いんだよ」

「でも、いまは弱ってる。
弱っている草食動物にかぶりつくライオンは卑怯」

「そうなの?」

「そうなの。だからぼくはたとえライオンでも、いまのアズミは襲わない」

でもそう言いながら、ぼくはアズミのまぶたに、わからないようにそっと口づけていた。


「よくエマージェンシーコール(緊急電話)してきてくれたね。ありがとう」

「だって、わたしには亮平しか」

「…ぼくら、共犯者だもんな」