アズミが亡くなってから、ぼくは彼女に線香の一本もあげていなかった。
アズミの両親から、ぜひ来てくれと言われていたが、なぜかずっと保留にしていた。
…たぶん、自分のなかで、アズミの死を認めたくない気持ちが、まだどこかにあったんだろう。
「ようこそ。どうぞ」
アズミの両親は、一人娘を失って、絆を深めたかのようだった。
ぼくは、彼らに招かれて、アズミの遺影のある部屋へ入った。
そこには、満面の笑みを浮かべるアズミの姿があった。
ぼくは、線香をあげて、アズミに手を合わせた。
「アズミ。ぼくのこと、これからもずっと見ててくれよ。…」
ぼくは、こころのなかで、彼女の手をぎゅっと握った。