「アズミが、まだ早いって言ったんだ…」

ぼくの口元に注目した看護師の女性に、
ぼくは軽く首をふった。



ICUを出て一般病棟に移ると、窓の外から、太陽の下で燃える緑の木々が見えた。


「そういえば、胸が痛まないな…」


ぼくは、不思議な思いで、自分の胸を押さえてみた。

もちろん、肺炎の痛みはあったが、それといままでの激痛とは、まったく異なったものだった。


ぼくを長年、苦しめてきたあの痛み。


あの胸に突き刺さった壊れたガラスの破片が、肺炎と一緒にどこかへ流れてしまったのだろうか?