そんな日々は経ち、
迎えた大会当日。



「行ってきまーす」



玄関を出る瞬間、
隣のドアもほぼ同時に開いた。



「うわっ奇遇ー。
おはよう万里花」



相手はもちろん悠太。



「おぉ。おはよ。
朝一緒は久しぶりだね」

「なっ。確かに」



私と悠太は階段を下る。



「ねぇ悠太、
今日愛ちゃん見に来るの?」



いや、別に
深い意味はないけど。



気になって聞いてみた。



「もちろん」



悠太は笑う。



あの最高の笑顔じゃなくて、
にたにたした感じに。



愛ちゃん、あなたは
この野球バカに
愛されてますね。



「うん、そっか」



何気ない会話が
なぜかそこで沈黙になった。



何か空気が重い。



そのまま私と悠太は
最寄り駅まで一緒に向かった。



駅に着いたら
ホームは逆だから
悠太とはそこで
バイバイ。



私は改札口を
通った所で
悠太に言った。



「じゃ、頑張ってね」



そう言ってホームに
向かおうとしたら…



「万里花!」

「…?」

「お前も負けんなよ」

「あたりまえ」

「ちっ。可愛くねーの」

「悪かったね」

「ったく」



すると悠太は
私に一歩近づいた。



「じゃぁまた帰りな」



私の頭をポンポンと
軽く叩くと
少しにっと笑って
逆のホームへ向かった。



「…ずるいよ、ばーか」



認めたくない。



いや、
これからも認めない。



私は別に
悠太を恋愛感情として
好きなわけじゃない。