おじいさんの家の裏庭に植えられた立派な桜の樹に、今年も薄紅色したの無数の花びらたちが咲き乱れ満開になりました。
五月の爽やかな春の風に吹かれながら、おじいさんは縁側に座りおばあさんとの想い出の桜の樹を眺めていました。
桜の樹はおじいさんとおばあさんが結婚したちょうど五十年前に記念に植えられたものでした。
そのおばあさんは三年前の春に亡くなり、独りぼっちになったおじいさんは淋しい毎日を過ごしていました。
そんなおじいさんのところへ、隣に住むけんちゃんが子犬を連れてやって来ました。
「おじいさん、こんにちは」
「おぉ、けんちゃんじゃないか。よく来たね」
「今日はおじいさんにこの子犬をプレゼントしに来たんだ」
「それは、嬉しいな。けんちゃんありがとうよ」
おじいさんはけんちゃんから真っ白毛のフワフワした子犬を受け取りました。