早速練習が始まった。スバルがスタジオを借りたため、電車で一駅行ったところで練習をすることになった。ヒカルは、おそらく愛用のギターであろう、大きなハードケースを抱えて嬉しそうにやってきた。初日なので、とりあえずテキトーな曲を合わせてみることになった。Tokioの空船である。
「おいアラシ、それでも叩いてるつもりかよ。んなの小学生の餓鬼でも出来るぜ。」
ギターの手を止めてヒカルが怒鳴る。
「だから、出来ないって言ってるのに。」
アラシはうつむき、スティックをぽとんと床に落とした。
「けど、それなりに出来んだろう。俺がわざわざCDとドラム譜渡しただろう。」
スバルも、鍵盤から離れ、アラシがひらいてるだけの譜面を指差した。
「そう言ったって、俺、こんなの読んだことないし。五線譜がやっとですよ。
それに、CD聴いただけじゃ分りませんって。」
二人の冷ややかな視線を一気に浴び、無意識のうちに指が震えてきた。
「ったく、しらねっ。」
そう言い捨てて、ヒカルはアラシを置き去りにしてピックを踊らせ始めた。そ
れに合わせてスバルの指が華麗に鍵盤上を滑る。その目は、楽譜など見ていない。
彼は、絶対音感の持ち主であったのだ。