「主はシェリーの髪を掴みあげ、……そして彼女のこめかみに、銃口を突き付けました」
やめて! そう叫びかけたリオルの口を、アゼルは手で塞いだ。
助けに行こうとする彼女の体を、必死に彼は抑えた。
それは、リオルに銃口が向けられないようにするために。
「彼女と……シェリーと目があったのに、私は何もできなかった。手を伸ばすことしか、できなかったんです」
静に微笑み、彼女は声に出さずに言った。
ごめんね、と。そして、生き延びて、と。
「……何の躊躇いもなく、主は引き金を引きました」
貫通する弾丸。飛び散る血。タイルに倒れる少女。
彼女の顔を汚すその色は、とても、不似合だった。
「主に逆らえば殺される。北の国にとって、それは当たり前のことなんです。シェリーも、それを知っていました」
( お前らの代わりなんていくらでもいるんだよ )
そう。代わりはいくらでもいる。
だから殺しても構わない。必要のないものは、邪魔になるのだから。
だから殺されないように、必要とされるために、必死に主の命令に従う。
例え、それがいくら残虐な命令であっても。
「主は私たち三人に遺体の処理をしろと言ったんです」
彼は四人の仲が特別であることを知っていた。
だからこそ、そう命じた。
自分の大切な仲間が殺され、絶望に浸らせるために。
他の奴隷の者たちはそそくさと自分の仕事に戻り始めた。
逆らうから、と言うかのような瞳で、血の水たまりを見ていた。