こんなに悩まなかったと思う。

こんなに苦しまなかったと思う。


こんなに……人を傷つけた俺は、馬鹿だ。



走って、走って、目的地へと向かう。

あと少し。もう少し。


やっと着くと、空がベンチに座っていた。

何かを決めたような顔で、俺を見た。


「空……」


荒い息を整えながら、隣に座った。


「…私ね、笹河さんと初めて会ったときから…わかってた」


「え?」


「お茶したとき、名前言ったら驚いてた…」


ポツリポツリと話を始めた空。

俺は黙って聞いていた。



「…文化祭のとき、すぐ帰っちゃったから…悲しかった」



「悪い…」



「…笹河さんの彼女さんがうらやましいな」



空は俯いて、ギュッと唇を噛んだ。