ふと、千波を思い出した。


「なぁ、千波に何か言われたか?」


「………」


「聞いたんだな」



「い、いえ!」


「隠すな。怒らないから」



やっぱり聞いたのか。

もうひとりの『そら』の存在を。


「…はい」



「そうか」



「……あれ、忘れてください」



「は?」



“あの告白を忘れてください”


蒼空が小さな声でつぶやいた。


「笹河さん、好きな人がいるんなら…あたし…」


ポロッと涙を零した。


俺は確かに蒼空を諦めたはずなのに。


何で、またドキッとして。

何で、手が動いて。


蒼空を抱きしめたいと思うんだろう。