兄の事が大好きだった私は、何度も病院へお見舞いにいった。
 その度に兄は嬉しそうに笑ってくれて、私は兄から色々な話をしてもらった。
 兄が描いていた、空想の物語。
 その題材には、よく「空」が使われていた。

 兄は、空が大好きだった。
 空の青と雲の白の鮮やかなコントラスト。地平線に赤く染まった夕焼け空。宝石を散りばめたような星空。なぜだか兄は、曇り空や雨の日の空でさえも好きだった。
 空を舞台にした大冒険や、太陽と月のロマンチックな恋物語。そして、空へ還る生き物達の物語。

「いつか僕は、雲になりたい」

 兄はそう言っていたけれど、子供だった私はそれを嫌がった。
 そうなったらもう、兄とは会えなくなってしまうと思ったからだ。

 空が大好きだった兄。
 泣き虫でよく泣いていた私を、優しく慰めてくれた。
 高校受験の弱音を、何も言わずに黙って聞いてくれた。
 私が高校に合格した時、自分のことのように喜んでくれた。
 私は誰よりも、そんな兄のことが大好きだった。

 ――今はもう、私に何も語りかけてはくれない。