兄と過ごす最後の夜。
告別室に運ばれた棺と、そこに集まった親族と共に、兄との別れを惜しむ。
両親は、遠いところからわざわざ来てくれたという親族にお礼を言って回っていた。
親族の何人かが私に、「お気の毒に」「悲しいわね」などと話しかけてくるけど、私は、「はあ」としか答えられなかった。
「由美子ちゃんも、もう高校生だものね。これからはお兄さんの分まで、ご両親を支えてあげなきゃダメよ」
何を言ってるんだろう、この人は。そう思ったけれど、私はやっぱり、「はあ」としか言えなかった。
映像がぶれているかのように、兄が亡くなったという事実は私の意識とうまく噛み合わない。夢想のようにふわふわと宙に浮いているような感覚だった。
出された食事も喉を通らず、私は虚ろな目で、兄に語りかける親族を見ていた。
ある人は優しげに語りかけ、ある人は涙を流しながら語りかけている。
この中に、兄のことを理解していて、兄が亡くなったということを心底悲しんでいるという人間は、何人いるのだろうか。
それはわからない。だけど少なくとも、これだけは言える。
この中で誰よりも兄のことを大好きだったのは、私だということ。