「……これも、契約?」

マグカップの中身をじっと見たまま、芳野さんの方を見ずに言う。

体調を気遣ってくれているように見える。

……いや、気遣って用意してくれたのだろう。

「はい、契約です」

と即答し、皮剥きに没頭する芳野さん。

……多分、そう答えるとは思った。

彼女にフレンドリーな返答は期待してない。

だけどやっぱり違和感は拭えない。

契約という言葉が、冷たく感じない……

前に「契約ですから」と言われた時は“契約だから仕方なくやっている”というニュアンスに聞こえていた。

でも……


「契約って……具体的に母さん、何て言ってたの? 電話出たの、芳野さんだよね?」

「留守にするから、息子の面倒と家の管理……。具体的には部屋や庭の掃除、洗濯、食事の準備……ですね」

「……それだけ?」

芳野さんは最後の一切れに切れ目を入れながら、小さくうなずく。


「どうぞ。召し上がれそうでしたら……」

ウサギ型の林檎が乗ったお皿を差し出される。

その一切れには、ようじが刺さっていて促されるままに手に取る。