芳野さんは、ベッド脇のサイドテーブルにお盆を置き……

「どうぞ。一口飲んでみて下さい」

と、マグカップを持って差し出してくる。

「う、うん……」

受け取ったマグカップには紅茶が入っていて、一口含むと……


「あ……生姜紅茶?」

「はい。蜂蜜を多めに入れてみたのですが……飲めますか?」

「うん……美味しい」

生姜紅茶は正直、あまり好きじゃなかったけど、これなら飲めそうだ。


温かい生姜紅茶を飲みながら芳野さんを見ると、立ったまま林檎を手に持ち切り分けている。

8当分に切り分けた林檎の皮に切り込みを入れ、ウサギの耳に見立てて器用に剥いていく。


「……座れば? そこの、勉強机の椅子」

何となく、立たれていると落ち着かない。

「あ……はい」

芳野さんは一旦、林檎と果物ナイフをお皿の上に置いて、キャスター付きの椅子をベッド脇にひいて座った。

右隣に林檎を剥いている芳野さん……。

何だか、変な感じだ。

いつもと空気が違うっていうか……

うつむき、白い湯気をたてる生姜紅茶をじっと眺めながら、その奇妙な違和感の正体を考える。