そうだ……あれは夢だ。

夢の中の出来事に違いない。

もし、夢じゃなかったら……


母親を呼びながら芳野さんの手を掴んでいたなんて、恥ずかし過ぎる……

笑顔の芳野さんは……俺の願望、とかだったらどうしよう……

そんな自分、痛々しくて耐えられない……。


コンコン――と、ドアをノックされ、お盆を持った芳野さんが入って来る。

お盆の上には白いマグカップ、切り分けていない赤い林檎、小さな果物ナイフが乗っていた。