ハルのあの寂しげな笑顔を見てから不安だった。後から聞こえた声も、幻聴だと言い聞かせた。

 1年たってもハルは帰ってこなかった。それだけでは帰ってこないと思ってはいたが、胸騒ぎが収まらなかった。
 何よりハルを嫌っていた母が何も言わなくなったのも、何かあると思ってしまうほどに―――――――

俺は母さんに訊こうか迷っていた…

「どうしたの?」

俺の顔がどうだったのかは知らないがそう訊いて来た。もう訊いてしまおう。

「母さん、俺、ハルがいなくなる時『バイバイ』って聞こえたんだ」

ハッと母さんの息の音が聞こえた気がした。驚いているようだが、悲しそうにも見える。どうして?どうして母さんが悲しそうな顔をするの? やっぱり知っているから――――?

 それから自分のわかっている範囲のことを話したら、母さんが言った。

「ハル、さんは、もうココにはいないわ。私たちのことも、もう覚えていないでしょう」
「な、何ソレ……」

 思っていた通りハルはいなかったが“覚えていない”という言葉に衝撃を受けた。

「詳しくは、父さんに訊きなさい」

母さんに諭すように言われ、俺は急いで父さんのところへ行った。