「遅刻遅刻~っ」

ある朝。

早川 理子は慌てながら玄関でローファーを履いている。

事件から一年。

引っ越しや事後処理などで一年も休学していたが、ようやく今日からまた復学する。

新しい制服、新しい学校。

もう美原市でも榑市でもない学校。

友達なんて、一人もいない。

だけど。

(大丈夫)

理子はパンパン!と頬を叩く。

一人でも平気。

華鈴、貴女が勇気を沢山くれたもんね。

だから頑張れるよっ。

よしっ、と自分に気合を入れて、玄関を出ると。

「おはようございます」

理子と同じ制服を着た、無表情の矢崎 夕映が立っていた。

「夕映ちゃん…何してるの?」

「ご挨拶ですね」

夕映は少しムッとした表情になった。

「理子さんが初めての登校で勝手がわからないだろうから、迎えに来てあげたのに」

「…あはっ」

その事に、理子は思わず微笑む。

…華鈴、大丈夫だよ。

私、一人じゃないみたい。