「……」

鬼島が黙って操縦席を立つ。

「鬼島さん」

夕映が彼を呼び止めた。

「どうするつもりですか…ヘリで離陸してしまえば、あのゾンビは追って来れません。放っておいてもいい筈です」

「…それでも俺は、かつての仲間をあんな姿のまま見過ごす事はできん」

元とはいえ同僚だったからこそ、この手で眠りにつかせてやりたい。

それは同じ釜の飯を食っていた鬼島の、せめてもの慈悲の心だった。

「何を言っているんですか、ヘリを操縦できるのは貴方だけなんですよ?貴方の身に何かあったら、私達生存者は脱出できずに全滅ですよ?」

尚も鬼島を制止しようとする夕映。

「その時は君達でヘリを操縦してくれ。君は機械に強いんだろう?」

「そんな勝手な…!」

食い下がる夕映の肩を。

「行かせてあげなさい」

純がポンと叩いた。

彼女は鬼島の顔を見る。

「その代わり、必ず生きて帰りなさい?生存者達のリーダーとしての命令よ」

「…了解」

鬼島は軽く敬礼した後、ヘリを降りた。