颯太は学生の頃は野球少年だった。

小学生、中学生と野球に明け暮れていたが、中学最後の県大会前に肩を痛めて野球を断念。

以来ピッチングをする機会はなかったのだが…。

(何事も経験しておくもんだ…こんなとこで役立つなんてな)

コントロールと遠投には自信があった。

颯太の投げた箱は、狂いもなく理子の手元に届く。

「え…颯太さん、これ…」

「それを持って逃げてくれ」

呆然とする理子に、颯太が微笑みかける。

「この街や、美原市を化け物の餌食にしちまった日本政府が、寄生虫を取引に使おうとした動かぬ証拠って奴だ…そいつを持ち出して、マスコミに情報を流してくれ…世論を味方につければ、政府だってしらばっくれていられなくなる」

重大な情報を信頼できる人間に託し、笑顔を見せる。

その姿はどこか、妹の華鈴に重なって見えた。