―イリエ ヨウスケ=トクベツ―


『入江洋介のミニミニガイド~。あれね、槍の先みたいでしょ。槍ってわかる? 戦争で特に騎馬隊をやっつけるのに向いてた武器だよ。お馬さんかわいそうだったね。んで、あのとんがってる岩、ちょっとまぶしいけどね、見える?』


『知ってる。だから槍が岳って言うんでしょ』


 連れだって歩いているのは全部で五人。


 なのに話を聞いてるのは主にもっちーと、へばりがちなキナコとあたしだけだった。


『ぴんぽん、ぴんぽん~易しすぎたかな』


『つか、どこに向かって、あたしら歩いてると思ってるの』


『え? 父よ、大地よ?』


『大空よ? って。おかしすぎ~。アレを見るためにあるってるんじゃん』


『いっけね~初級すぎた~』


 そう言って、入江は頬を引っ掻いた。


『よっちゃん、受けるんですけど~』


 暇人の集まった倶楽部で、みんなツボが浅い。


 げらげら笑う。


 でも部長のあたしは違ってて、いろんなことに気を配らなければならないから、真剣に、慎重に耳を傾けていた。


『でも、あそこって昇るのはすごく大変って聞いた』


 もっちーがさりげなく話を振った。


『そだよ。素人が一人で行っちゃ駄目』


 入江はこともなげに応える。


 さすがアルバイトとはいえ、地元のガイドさんだけある。


『じゃあ、あなたと一緒なら、私も行ける?』


 それまではほとんど言葉少なに、話を聞いてたあたしの質問に、彼は一瞬、あきっぱなしだった口を閉じて、


『なんか、どきどきすんね、その言い方』


 って、柔らかな目線で笑ったんだ。


 そう、あの時から、入江 洋介は私の「トクベツ」に、なったんだ……