「なぁ、黒木」

さっきと同じだ。

「んー」

「黒木のこと、あずさって呼んでいい?」

え?横を向くと、木川は空を見上げていた。
いいよ。

「いいよ。じゃー私は、陸って呼ぶ」

「了解」

中学の時、みんなに『あずさ』って呼ばれてた。男子にも、女子にも。

でも、木川は・・・違った。クラス違ったからかな・・・。

高校は、苗字だもんね。
中学、懐かしいなぁー。

思い出にひたっていると、

「100m、走って帰ろっか」

「うん」
再び空を見上げると、完全な夕焼け空だった。この綺麗な空はいつまでも変わらないんだね・・・。

私と陸は100mのスタートに向かった。今度は、2人とも位置につこうとしなかった。

「走ろう」
ためらっていると、陸が声を掛けてくれた。

「うん」

走ろう。集中しなくちゃ。

クラウチングの姿勢。腰を上げる。

スタート!

一歩目を思いっきり踏み込んで、蹴る。体が軽い。前に、ただ前に・・・。

ゴールイン!

ゴールした途端、我に返った・・・。今の走り、不思議だった。初めての感覚だった。不思議、でも気持ち良かった。

「速いじゃん」
陸の言葉。

「当たり前じゃん」
言葉が自然と浮かんで口から出た。