「ねぇ、一回だけで良いから…」
急に井原さんがシュンとして
僕を見つめてきた。
時々井原さんはこんな目をする。
前は僕に理科の実験の準備を手伝ってくれと言ってきた時だった。
多分本気のお願い事をする時の
クセなんだと思う。
そして、僕はこの目をされると、どんなお願い事も断れないことを知っている。
「一回だけだよ?」
「うん。」
「僕が相手だから、楽しくないかも知れないよ?」
「良いよ。」
「じゃあ、デート…したげるよ」
「やったあ!!」
井原さんはその場で小踊りした。
その小踊りはやたら上手で、
僕たちはかなり注目を浴びた。