「井原さん」


「ん?なあに?」


井原さんはニコニコと
僕に笑いかける。


この愛らしい笑顔は、
僕に向けられるべきじゃない。


「もう、僕に話しかけないで」


「………へ?」


井原さんの目が真面目になる。


「な、に、言って……」


「僕に、もう関わらないで」


僕は
井原さんの目を見られなかった。


「……………。」


重い沈黙。


ゆっくり顔を上げると、
井原さんの姿は無かった。


………なんでだろう。


僕は正しい事をしたはずなのに。


なのになんで。


なんでこんなに
胸が痛いんだろう。


僕はそのあと、お気に入りのマンガを開く気にもなれなかった。