何から何まで最悪な始め方で、席だって一番後ろの端で、しかも廊下側で。

何だろう、地味?キノコ?
一人になりたくて、こっそり屋上へやってきて、見晴らしの良い場所で体育座りをしていた。
こんな始め方なので、当然友だちなんて出来るわけもなくて…オンリー生活のスタートですよ。



「名前くらい…ちゃんと言いたかったな……」



言葉にしたらもっと虚しくなったのは嘘じゃない。



「よしッ!練習しよう!」



立ち上がって瞳の端に溜まった涙を拭った。



「は、はぃじめまて!ゆゆ勇気皿と申します!!」



……自分の名前を自分でネタにしてどうずるのよ!!結城を勇気って、寧ろ私に勇気をください。皿って、食器ですか!
もうっ…本当に情けなさすぎる……ああ、今すぐこの屋上から飛び降りて死にたい。

瞳の端に集まり始めた凝結に、唇が震えた。
その時。後ろからあの小さな笑い声が聴こえてきた。そう、桜の王子様の声。



「あはははっ!ちょっと、フっ」
「さささ!桜の王子様っ!?」
「え?王子様?」



急いで自身の口元を覆った。変人の上に変態のレッテルを張られてしまう。断固阻止。
上に登って来て隣に並ぶ。やっぱり高い背丈に、顔を自然と上げてしまう。
じゃないと、顔が見れないから。



「えっと。結城沙羅、であってるのかな?」
「はっ、はい。あってます」
「結城だな。よし、覚えた」



ああ、この人の笑みを見ていると何だか胸のどこかが騒がしくなるの。煩くて聴こえなくなってしまうくらい。
なのに、不思議な事に聴こえるの、貴方の声だけは。どうしてなのかな……?



「俺は、神谷陸」



桜の王子様の名前は、神谷陸。そう頭の中で何度も繰り返した。

春風のような温かな貴方の笑顔に、私もつられて笑顔になれてたらいいなって思った。