「桜が綺麗」



並木道をゆらりと歩きながら手続きの書類を片手に、歩いていた。
お父さんの仕事の都合で三度目の引っ越しを終えた春、四月。
桜花小学校から持ち上がりの公立中学校へ、今年の春から通う事になった私。結城沙羅、13歳。

本当は入学式に合わせて来たかったのに、少し遅れてしまい。まさかの転校生扱い。
本当は両親と来る予定だったんだけど、二人とも都合が悪くてそれに書類を提出するだけで、保護者が介入しなくても簡単に済むものだから、私は一人で桜花中学へと向かっているはずなんだけど……あれ?もしかして道に迷ったかな?

左右を確認しながら、地図と比較するとまったくもってここがどこだか解らなかった。
お父さんに貰った地図なのに、いや。だからこそなのかもしれない。大雑把すぎてわからない。

どうしよう…人気も少ないし、道を聞きたくても聞けないし……。



「あの。どうかしたんですか?」
「えっ」



後ろから声をかけられて振り返る。そこに立っていた彼は、まるで桜の王子様だった。



「あ、あの。み、道に迷ってしまって……っおお桜花中学ってどこにあるんですかッ?」



スラッとした背格好、好青年のような爽やかな顔だちと雰囲気。そして。



「この坂を登ったらすぐだよ」



とっても紳士的な人。まさに、王子様。カッコイイ、人だな……。
思わず見惚れていたのにも関わらず、その人は桜の花びらのように去って行った。



「じゃあ、ね」
「は、ハイ!ありがとうございました」



頭を深々と下げると小さな笑い声を洩らして、小さく笑っている彼の表情が頭から離れなかった。

そう、彼と初めて会ったこの桜並木の坂の途中。君を桜の王子と命名した日だった。