「そんなことはないけど……気になっただけ。」
聞いてはいけないことだったのかもしれない。
(あたしの馬鹿……)
数分前の自分を殴りたい。
後悔先にたたずとはこのことだ。
「別にいつも笑ってる訳じゃないんだよ?」
自己嫌悪に陥っていたあたしに、那祁は少しだけ声のトーンをさげながら言葉を紡ぐ。
「ただ、楽だから」
「楽……?」
「そう。笑顔程楽なものはないからね」
ニッコリと笑う那祁に、あたしは触れてほしくないんだなと思った。
人は誰しも触れられたくない部分を持っている。
あたしにも、那祁にも、廉にも―――蒼真にも。
別にそれを話す必要はないとあたしは思う。
「―――そっか」
だから、あたしは頷くだけにした。