「思ったんだけど、別に王様を演じなくていいんじゃない?」
有香さんは言った。
「男版シェヘラも面白いと思うけど」
予想の斜め上をいった回答。
俺は言葉の意味がよくわからず首を傾げると、本田コーチは一笑に付しながら「あのな」と口火を切った。
「シェヘラザードは知的で聡明で勇気ある女だ。男が王妃を演じるのは無理があるだろ」
「だからいいんじゃない。シェヘラザードなんて有名選手が滑り尽くした定番曲よ。過去の選手が滑ってきたシェへラと一線を画すにも、男版シェヘラは面白い挑戦だと思うけど?」
「俺も良いと思いますよ。最近我が強いというか、アクが強めの選手が多くて、タッくんみたいな“キラキラ王子様キャラ”って少ないじゃないですか。
だから傲慢ちきな王様より、気品あるシェヘラの方を演じたほうが、役にも合って意外性もあるし面白いんじゃないかな?」
黙ってお三方の話を聞いていたけれど、これは褒められているのかな?
有香さんの言っていることは納得できる。