四年に一度の大舞台。次を狙えるチャンスなんてあるかどうかわからない。


本田コーチや大塚さんのように怪我をするかもしれないし、下から若い世代もどんどん出てくる。


だから今しかない。今しかこのシェヘラザードを滑るチャンスなんてないのだ。


本田コーチは顎に手を当てて悩んでいるのか顔をしかめる。


選曲が気に入らない?


いやでも、今まで俺が滑りたいと言ったら特に反対せず、すんなりOKしてくれていたけど……。


再生が終わると同時に、頃合いを見計らってか本田コーチが口にした。


「お前に女をはべらかす傲慢な王様を演じられるのか?」


その瞬間「終わった」と心の中で呟いた。


うん、無理だ。俺に女性をはべらかす傲慢な王様なんて演じられない。そんな人の心境なんてわかるわけがない。


「現代風に解釈すると“やり捨てし放題のプレイボーイが、聡明な女によって更生する話し”だ。どんなに頑張ってもお前とは正反対の男だぞ。無理だろ」