美優の前では、五輪のジンクスなど関係ない。


逆に新たなジンクスを作ってしまいそうだ。


世界選手権を三連覇しないと五輪で優勝できないとか……さすがにこのジンクスは無理があるか。


「まあ、思う存分楽しんでこいよ。いくらお前でも初出場初優勝なんてハードルが高すぎるんだから、メダルはおまけ程度に考えて冬の祭典を満喫してくればいいさ」


「頑張れ」という言葉は敢えてかけなかった。


美優が誰よりも頑張って努力しているのは知っている。誰よりも期待とプレッシャーをかけられているのもわかっている。


だから「頑張れ」なんて言えなかった。


そんなこと言ったら、人一番努力家な彼女は頑張りすぎてしまう。


頑張りすぎて、潰れてしまう。


五輪の金メダル。小さい頃から変わらない美優の夢。


まともに相対して、美優を負かす選手などいないだろう。それが事実であり現実。