「どうせ止めろと言っても、お前はやるんだろ?」


睨みをきかせて怒気の籠った声色。とてもじゃないが、これから滑る選手に向けた言葉とは思えない。


「ははっ……すみません」


とりあえず平謝り。


本田コーチはもう一つ盛大な溜息を零すと、頭の後ろを掻いて視線を外した。


コーチには悪いけど、これだけは外せない。


練習でも直前の六分間練習でも跳べている。俺からしたら外す理由はどこにもない。


それに、朝飛と美優に負けたくない。


朝飛は四回転を跳ぶつもりだ。美優もSPで3Aを成功させ、FPでは二度の3Aを予定している。


俺一人だけ安全策なんてかっこ悪いじゃないか。


それに大事な大会だからこそ、勝たなければならない試合だからこそ、最高の演技をやり遂げたい。