世界中が注目している。さて、女王様はどのような演技を魅せるのだろうか?


大声援の後、会場がシンッと静まる。


曲がかかる。


アルフレット・シュニトケ作曲『タンゴ』


黒い衣装を身に纏い、憂いのあるタンゴの調べに乗せながら、彼女の五輪シーズンが幕を開けた。


たった一蹴りでスピードに乗り、軽いターンを挟みながらあっという間にトップスピードまで持っていく。


ターンをしながらスピードを出すのは至難の業だ。それだけスケーティングが優れている証拠。


凄いな。まだなんの要素も行っていないのに、音楽が鳴った瞬間から他人を自分の演技の中に引き込ませている。


振り付けもさることながら、彼女の雰囲気がそうさせるのだろう。


唇に弧を描き、妖艶に滑る様はとても高校生には思えない。


彼女の武器は高難易度のジャンプだけじゃない。