『ちょ待てよ、待てって!!』


ビクッ


あたしは後ろを向いた。


……………………伊川…。


何で追いかけてくんのよ。

『最後にいいたい事がある。
まだ伝えてなかった。』


え?


『……好きだ……。お前が…
夢が…好きなんだよ。』


嘘っ!

でも、言わなくちゃ。
伊川はただの友達だって。

言わなきゃ、後悔する。


これが正解なんだよね。

多分。


あたしは重く固く閉まった口をゆっくりと開いた。

『あたしは…あたしは…伊川を恋人とは…見れない…。』


伊川は分かっていたかのように頷き、

『そ…うだよな。薄々気づいてたんだ。高瀬だろ?』


あたしは俯き、もう一度ゆっくりと口を開く。


『知ってたんだね。でも…伊川はただの友達じゃなかった。』

伊川は驚いた表情をした。


『伊川は恋人未満、友達以上の存在だった。
好きだったよ。
でもそれは、likeでloveじゃなかった。
ただそれだけの違いだよ。』


伊川は家のドアを開き、大きな声で叫んだ。



『今までありがとなー。
夢と出会えて嬉しかった。
……さよなら。』


バタンッ



これで、もう伊川はいないんだ。


あたしは歩いた。

行き先は決めていない。


一歩、また一歩、とただただ足を進めていくだけ。


足を進めるたび、

一粒、また一粒、と雫が落ちていった。


まるで、足跡のように。


…ポタッ……ポタタッ


あたしのすすり声は静かな住宅街に虚しく響いた。


『…ヒック…ヒック………ヒック…』