「おばあさま、それは違うんです!
この間は、きちんとお話できませんでしたが、
あれは、美玖さんの方から、僕ではなく孝太郎と付き合いたい、と言ってきたんです。
それに、僕には当時から付き合っている女性がいて、それを知っていた孝太郎が、やむなく美玖さんを受け入れたんです。
孝太郎は悪くありません」
お兄さんがきっぱりとそう言うと、おばあさまはうろたえ始めた。
「ちょ、ちょっと待って。
修太郎、あなた、お付き合いしている女性がいるの?」
「はい。
もう5年になります」
「き、聞いてませんよ、そんな話」
「もっと早くにお話しするべきでした。
すみません」
お兄さんが頭を下げると、おばあさまは「ゆ、許しません!」とつぶやきながら、シルバーシートの方へ行き、そこに腰を下ろした。
バッグを持つ手が、ぎゅっと固く握り締められ、わなわなと震えている。